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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1691号 判決

判決

控訴人

合資会社荒木木工所

代理人

中田長四郎

被控訴人

出井恒吉

代理人

長尾憲治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、適式の呼出を受けながら、当審における本件最初の口頭弁論期日に出頭せず、よつて陳述したものと看做された控訴状の記載によれば、控訴人の控訴の趣旨は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めるというにあり、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。〈以下略〉

理由

控訴人は「昭和二七年頃被控訴人との間の賃貸借契約に基づいて本件土地(原判決添付目録記載の土地)の引渡を受け、爾来これを占有使用していたが、昭和三九年二月六日頃被控訴人が本件土地の占有を侵奪した」と主張し東京地方裁判所に対して被控訴人を債務者とし占有権を被保全権利とする本件仮処分申請をなし、同裁判所は口頭弁論を開いたうえ、同年五月八日右申請却下の判決をしたこと。控訴人は、右判決に対して控訴したところ、東京高等裁判所は右控訴事件(同庁昭和三九年(ネ)第一、二五一号不動産仮処分申請控訴事件)につき、昭和四〇年九月二九日本件土地に対する控訴人の占有が侵奪されたものと認めて、原決を取り消し、本件土地の執行官保管、判債権者(控訴人)の使用等を命ずる仮処分判決をなし、控訴人は右判決に基づいて仮処分の執行をしたこと。控訴人は、東京地方裁判所に対し、右仮処分の本案訴訟として被控訴人を被告とする占有回収の訴を提起したが、右事件(同庁昭和四〇年(ワ)第九五〇号土地明渡、損害賠償等請求事件)は昭和四二年四月二四日いわゆる休止満了について訴の取下と看做されるにいたつたこと。さらに、控訴人は、同年一〇月一六日東京地方裁判所に対し、被控訴人を被告として、被控訴人が控訴人との間の本件土地賃貸借契約について昭和三九年二月二日到達の内容証明郵便をもつてなした契約解除は無効であり、控訴人は依然として本件土地の賃借権を有すると主張して、賃借権確認、土地引渡を求める訴を提起し、右事件(同庁昭和四二年(ワ)第一一、〇五三号事件)は現に同裁判所に係属中であること。以上の事実は、成立に争いのない疎甲第三ないし第六号証、疎乙第一号証ならびに弁論の全趣旨によつて疎明されるところである。

思うに、民法二〇一条が占有回収の訴は侵奪の時より一年内に提起することを要すると規定したのは、右期間を経過すれば被侵奪者に対する関係においても侵奪者の占有は侵奪によるものとしての瑕疵を失うことから右期間を除斥期間とした趣旨であると解するのが相当であるが、前記事実によれば、控訴人は除斥期間の経過により被控訴人に対して本件土地につき占有回収の訴を提起しても敗訴を免れなくなつたことが明らかであり、したがつて、右占有回収の訴につき控訴人敗訴の確定判決がなされた場合と異ならないものということができる。

被控訴人は、右のような場合には本件仮処分について民訴法七四七条一項にいわゆる事情が変更したときにあたると主張し、控訴人は、これに対して、前記賃借権確認等の訴は本件仮処分の本案訴訟にあたるから、右訴訟が現に係属中である以上、事情が変更したときにあたらないと主張するから、考えるに、右のように、仮処分の被保全権利に関する本案として提起された訴訟が維持されず、訴取下と看做されて終了し、あらためて本案訴訟を提起しても除斥期間に妨げられて敗訴を免れなくなり仮処分債権者(原告)敗訴の確定判決があつた場合と異ならない状態に立ち至つた以上、右仮処分について前記法条にいわゆる事情が変更したときにあたるものと解するのが相当である。右訴訟と請求の基礎を同一にする別訴が係属したとしても、そして、右別訴が右仮処分の本案訴訟たりうることを肯定するとしても、右のように解することの妨げとなるものではない。なんとなれば、もし事情の変更を認めず、右仮処分を依然として維持すべきものとすれば、本件のように口頭弁論を経たうえ判決によつて仮処分がなされた場合において、仮処分債権者からなんら主張されず審理判断を経ない他の権利について保全処分の流用を認めるにひとしい結果となり、仮処分債務者の保護に欠けるおそれがあるとともに、他方仮処分債権者としても、右仮処分が事情変更により取り消されたところで、賃借権を被保全権利とする仮処分を求める途が残されているから、右のように解したところで、仮処分債権者の保護にも欠けるところがないからである。これと異なる控訴人の主張は、採用しえない。

よつて、本件仮処分は事情が変更したものと認めてこれを取り消すのが相当であり、これと同趣旨に出た原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条四項に従い、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。(室伏壮一郎 園部秀信 森綱郎)

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